INTERVIEW

吉本直貴さんインタビュー

今回は、MoMAの新しいロゴシリーズをデザインした、MoMA永久収蔵品「YOSHIMOTOキューブ」の作家でもある 吉本直貴氏にお話を伺った。

1.今回作ってくださったMoMAのロゴの発想源となっているのは何ですか?

NYで、ニューヨーク近代美術館MoMA DESIGN STOREのチームの方と食事に行った際に、数学の「4色問題」を話題に取り上げて、「1年後の宿題に塗ってきてね」と問題用紙を渡した。1年後に会うと、完成した宿題ではなく、36色のMoMAの色鉛筆をプレゼントとして渡された。
そこで私は、この36色の全ての色を使ってみたくなり、どうせ使うならば「MoMA」を描いてみようと思った。先ずは正方形をベースにMoMAのロゴを描き、その後の色塗りは、1番から36番までの番号順に並んだ色鉛筆の番号通りに、順番に塗っていくことにした。通常、色鉛筆の並びはグラデーションになっていたりするものだが、この色鉛筆は全くランダムに並べられていて、その法則に身を任せてみたくなった。結果は予想以上の美しい完成作品になった。

アーティストとしての感覚を抑えて、受身で作ったけれど、やってみようという思想自体は作家として考えた。もともと立体的な作品だけではなく、平面的な仕事もしてみたいと思っていたので、良いきっかけになった。

2.YOSHIMOTOキューブはどうやって誕生したのですか?

もともと原理を追究していくことが好きで、立方体を等分割して形と空間の法則を調べている過程で、誕生した。その結果を、1972年に個展で発表すると、YOSHIMOTOキューブNo1・2・3としてプロダクト化されることになった。1981年に朝日新聞の記者がニューヨーク近代美術館へ日本からのお土産としてプレゼントしたのが学芸員の目に留まり、1982年に作品がニューヨーク近代美術館の永久収蔵品に選ばれることになった。ずいぶん時間が経っていたので、正直、驚いたが、とても嬉しかった。

3.現在の職業は、何ですか? デザイナーとか、数学者とか、パズル作家とか・・・

美術家ですね。

4.影響を受けたアーティストや作品はありますか?

アーティストではありませんが、ピュタゴラスをはじめとする古代ギリシャの自然哲学者たちの考えることの姿勢に影響を受けたと思う。ピカソ、デュシャン、カンディンスキー、ウォーホル、などなど、芸術表現を発見した全ての作家を尊敬している。

5. 好きな食べ物は何ですか?

チョコレートケーキとカプチーノです。(笑)

今回、吉本先生が作ってデザインしてくださった「MoMA」のロゴは、法則性があるようにも、ないようにも見える。そんな斬新さから、比較的若い方の登場を想定していたので、実際にお会いした吉本直貴氏が想像以上の「紳士」だったことに、先ず、驚きを隠せなかった。
吉本氏はジャケットに帽子を被っていて、てっきり革靴かと思って足元を見てみると、そこは白と黒の幾何学柄のスニーカー。年齢を考えると、このセンスはやはり、ただ者ではないと確信する。
取材の途中も、平面状の紙が立方体になり、裏返るという名刺を見せていただいたが、また平面状にして受け取ると、もう二度と立方体にできないなと焦ってしまった。その様子はまるで手品を見ているようで放心状態になってしまったのだが、そこで『先ほどの私の職業に関する質問の答え、「美術家」ではなくて「手品師」に変えてもらってもいいですか?』と何ともウィットに富んだ言葉に、更に心を奪われてしまった。

「答えの出ていない問題を追究する過程がおもしろい」と、常に難題にチャレンジし、新しい作品を創り続ける吉本直貴氏に、明日にでも会って次回作のお話を伺いたいと思うばかりだ。